たまりば

地域と私・始めの一歩塾 地域と私・始めの一歩塾三鷹市 三鷹市

近所の木

2013年11月22日

夏休み。

虫とり網をもった子供らが駆け回っていた。


蝉の鳴き声が永遠に終わらないように。

入道雲は高くそびえたっていた。



9月になって隣の古い建物の取り壊しが始まった。

老朽化していたからこれも時代の流れかなと眺めていた。

ブルドーザの音が止むと空き地になって
茶色い地面が顔を出した。


陽に焼けたガードマンが根元で
弁当を食べてから昼寝をしはじめた。

木漏れ日もちょっとは役に立つのかなと思ったりしながら。

夏から秋へ、空は高くなってゆく。



近所の主婦はいつも井戸端会議。

なんだかうらやましい。


言葉をもたない僕はいつも同じ景色を眺め立っている。

ときおりのそよ風に微笑んだりしながら。


台風の季節。

風が強すぎて枝という枝が折れそう。いたたた。


持ちこたえよ、負けるなよと、自身に言い聞かせる。

夜中じゅう続く風雨。


朝になると雨上がり。

きらきらと露がアスファルトに光っていた。

鳥が鳴く声は楽しげだなぁ。

いつものように自転車で出勤する人達が
水たまりを跳ねあげてゆく。


ある日やって来た男の子。

こぶになったあたりを触って何やら話しかけている。


聴いてあげたいけど言葉はわからないのだよ。

肩をふるわせているから共にそっとひとときをすごした。



晩秋はすてきな季節。

川ぞいのこの場所は夕暮れどきになるとたくさんの音楽家が集う。


トランペットやギターや胡弓やウクレレ。

思い思いの音が茜色の空一面にひろがる。

残りの花の匂いを吸い込みながら経つ日々。


葉っぱが赤く色づきはじめた。

いや茶色かな。オレンジかな。
どっちだっていいや。

入り混じるような暖色に染まるころ。


冷たい風に疼きはじめる。

枯れて舞う葉の行方。

まるい月と幾つもの星を見上げる夜。


やがて大晦日。

紅白の歌声がしめきった窓ガラスで聴こえない。

おごそかに鐘がなる夜。

やがて静寂に包まれて年が明けた。



冬のある日。

雪が舞いはじめて一面が真っ白に。


次の日には汚れてしまうとわかっていてもきれいだなと思う。

隣の木もおなじように真っ白。

見つめあい挨拶を交わしたい。

顔をかしげると雪が落ちた。


いつも同じ景色に思えても
ゆっくりと流れてゆく日々。


梅匂い、桜舞い、たくさんの花が咲く
春の日を思いながら、ここに立っている。


タグ :隣の木


  • Posted by えだまめ at 00:09│Comments(2)
    この記事へのコメント
    絵本になりそうな、彩り豊かな詩ですね。

    一本の木に思いを馳せる、えだまめさんの気持ちが伝わってきました。

    そろそろ秋が過ぎ去っていこうとしています。

    静かに立っている木に私も寄り添いたいなぁ…と思います。
    Posted by noriko at 2013年11月22日 19:37
    norikoさん、こんばんは。

    コメントありがとうございます。


    川ぞいに一本の大きな木があって
    朝晩になると見上げています。


    紅葉がみごとだなぁと思って見るうちに
    この木について書きたいなと思って書いてみました。


    イエラ・マリさんの“木のうた”という絵本も思い浮かべました。

    こちらは春夏秋冬のサイクルの一本の木の様子を描いた
    字のないシンプルな絵本です。


    木のまわりの時の移り変わりに思いをはせると
    なんだか木がまわりを見守っているような気がして不思議です。

    木の生きる命と共にあるのは
    幸せなことだなぁと思います。


    木のように時の年輪を重ねられますように。

    元気で楽しい秋冬をお過ごしください!
    Posted by えだまめ at 2013年11月22日 21:44
    上の画像に書かれている文字を入力して下さい
     
    <ご注意>
    書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

    削除
    近所の木
      コメント(2)