ほがらかな木
斜面をおりていた。
一本の木に目がとまり、思わず立ちすくんだ。
とても高い木。
南面にむけて細い枝をひろげていた。
黄色い葉はほとんど落ちて、わずかに残るのみ。
静かなたたずまい。
何をみつめているのだろうか。
あたたかな色みの黄。
暮れてゆく日にかかる灰色の雲。
冷たい風。
一本の木に、心がいっぱいになった。
森をなす木々のこころ。
侘しさや寂しさ。
やがてくる冬への備え。
またいつかここに来たい。
そう思えただけで、充たされた山の1日だった。
ただ生きる。
枯れて、やがて土になる。
まわりつづける時のサイクル。
朗らかな月のよう。
微笑むように見つめていた、一本の木のたたずまい。